記事作成日:2024年5月1日
最終更新日:2024年5月1日
文責(執筆):行政書士 野村 篤司
はじめに:「国籍」の決まり方について
「国籍」の決まり方は大きく二つに分けられます。
①出生による国籍取得
②本人の意思による国籍取得
上記「②本人の意思による国籍取得」は「帰化許可申請」や「国籍選択届出」がこれに該当します。
本記事では「①出生による国籍取得」について説明します。以下、見ていきましょう。
「①出生による国籍取得」とは?「血統主義」と「生地主義」、日本と韓国はどっち?
出生による国籍取得方式は、大きく分けると
①血統主義(出生当時の親の国籍を承継する方式)
②生地主義(生まれた国の国籍を取得する方式)
このいずれかになりますが、「日本」と「韓国」はいずれも「①血統主義」が採用されています。
1.日本人(日本国籍)と韓国人(韓国籍)の間で生まれた子どもの国籍について(現在の規定での結論=二重国籍)
前述の「血統主義」をさらに分けると
①父母両系血統主義(出生当時の父と母の国籍を承継する方式)
②父系優先血統主義(出生当時の父の国籍のみを承継する方式)
このいずれかになります。日本は1985年1月1日から、韓国は1998年6月14日から「①父母両系血統主義」になりました(韓国・日本国籍法第2条参照)。
つまり、現在、日本人と韓国人の間で生まれた子は(父が日本人でも韓国人でも)、生まれた時から日本と韓国の二重国籍者になります。これを韓国では、「複数国籍者」と言います。
(参考)「国籍の選択」について
日本の「国籍法」では、以下のとおり、国籍法第14条において「~国籍を選択しなければならない」と規定されており、成人に達してからもずっと「二重国籍であること」を認めておりません。なお、この手続きは期限を超過した場合でも義務が残りますので、間に合わなかった場合でも、選択義務が生じます。
例えば、二重国籍者が20歳になるまでに日本国籍を選択するときは、以下の2つの手続きが必要となります。
<日本国籍と韓国籍の二重国籍者が、日本国籍を選択する場合>
(1)市区町村役場にて、「国籍選択届出」を提出する。
※参考URL → 法務省の「国籍選択届出」該当WEBページ
(2)次に、「駐日本国大韓民国大使館」等で「国籍選択申告」という手続きが必要となります。
※参考URL → 駐日本国大韓民国大使館の「国籍選択申告」該当WEBページ
(国籍の選択)
第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が十八歳に達する以前であるときは二十歳に達するまでに、その時が十八歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。
第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。
2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。
3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この限りでない。
第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。
2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。
4 第二項の宣告は、官報に告示してしなければならない。
5 第二項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。
2.法律の改正に伴う日本人(日本国籍)と韓国人(韓国籍)の間で生まれた子どもの国籍について~生まれた時期で異なります~
日本も韓国も現在は父と母の国籍を承継する父母両系血統主義ですが、両国とも過去に父の国籍のみを承継する父系優先血統主義の時期がありました。
①1985年より前(日本及び韓国:父系優先血統主義)
1985年より前に生まれた子の国籍
・父が日本国籍、母が韓国国籍→子は日本国籍
・父が韓国国籍、母が日本国籍→子は韓国国籍
②1985年1月1日以降(日本:父母両系血統主義、韓国:父系優先血統主義)
1985年1月1日以降1998年6月14日より前に生まれた子の国籍
・父が日本国籍、母が韓国国籍→子は日本国籍
・父が韓国国籍、母が日本国籍→子は二重国籍
③1998年6月14日以降(日本及び韓国:父母両系血統主義)~現在
1998年6月14日以降生まれた子の国籍
・父が日本国籍、母が韓国国籍→子は二重国籍
・父が韓国国籍、母が日本国籍→子は二重国籍
3.法律が改正される前に生まれた子の国籍はどうなるのか?
例えば、父が韓国国籍、母が日本国籍の場合、1985年より前に生まれた子は韓国国籍です。しかし、1985年以降、法律が改正され、1985年以降生まれた子は母の日本国籍も取得し、二重国籍者になりました。
では、1985年より前に生まれた子は日本国籍を取得できないのでしょうか。
日本も韓国も、改正前に生まれた子のための特例があります。この特例によって、改正前に生まれた子も後日届出をすることで母の国籍を取得できました。厳密には「本人の意思による国籍取得」に分類されますが、出生による国籍取得と関係性があるため、この特例について説明します。
◎日本の特例(1965.1.1施行)
1965年1月1日~1985年1月1日の前日に生まれた子
↓
1985年1月1日~1987年12月31日に届出をすれば日本国籍取得
なお、この届出による日本国籍取得の同時に韓国国籍を喪失することになります。(韓国国籍法第15条参照)
<参考>
日本国籍法附則第五条(国籍の取得の特例)
昭和四十年一月一日からこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)の前日までに生まれた者(日本国民であつた者を除く。)でその出生の時に母が日本国民であつたものは、母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、施行日から三年以内に、法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。
◎韓国の特例(1998.6.14施行)
1988年6月14日~1998年6月14日の前日に生まれた子
↓
1998年6月14日~2001年6月13日に届出をすれば韓国国籍取得
(改正、2001.12.19施行)
1978年6月14日~1998年6月14日の前日に生まれた子
↓
1998年6月14日~2004年6月13日に届出をすれば韓国国籍取得
なお、この届出による韓国国籍取得の同時に日本国籍を喪失することになります。(日本国籍法第11条参照)
<参考>
韓国国籍法附則第7条(父母両系血統主の採択による母系出生者に対する国籍取得の特例)
①1978年6月14日から1998年6月13日までの間に大韓民国の国民を母として出生した者で次の各号の1に該当する者は、2004年12月31日までに大統領令が定めるところにより法務部長官に申告することにより大韓民国の国籍を取得することができる。 <改正01.12.19.>
おわりに
特別永住者(在日韓国人)として、日本の役所には各種届出をしたけれども、本国(韓国領事館)には何も申告をしていないという方がかなりの数でいらっしゃいます。
中には、そのまま本人が亡くなってしまい、相続手続きのために証明書を取って初めて気づくというケースも存在します。本来、事実通りに届出をする義務があるため、両国に届出(申告)をすることをお勧めします。
これらの行政手続きが難しいと感じる場合は、お気軽に当事務所へご相談ください。
関連法・参照条文等
韓国国際法第15条(外国国籍取得による国籍喪失)
①大韓民国の国民で自発的に外国国籍を取得した者は、その外国国籍を取得した時に大韓民国の国籍を喪失する。
韓国国籍法附則第7条(父母両系血統主の採択による母系出生者に対する国籍取得の特例)
①1978年6月14日から1998年6月13日までの間に大韓民国の国民を母として出生した者で次の各号の1に該当する者は、2004年12月31日までに大統領令が定めるところにより法務部長官に申告することにより大韓民国の国籍を取得することができる。 <改正01.12.19.>
1.母が現在大韓民国の国民である者
2.母が死亡したときは、その死亡当時に母が大韓民国の国民であった者
②第一項の規定による申告は、国籍を取得しようとする者が15歳未満であるときは、法定代理人が代わりにこれを行う。 <改正01.12.19.>
③天災その他不可抗力的事由により第1項に規定された期間内に申告できない者は、その事由が消滅した時から3月内に法務部長官に申告することにより、大韓民国の国籍を取得することができる。
④第1項または第3項の規定により申告した者は、その申告をした時に大韓民国の国籍を取得する。
日本国籍法第十一条(国籍の喪失)
日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
2 外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。
日本国籍法附則第五条(国籍の取得の特例)
昭和四十年一月一日からこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)の前日までに生まれた者(日本国民であった者を除く。)でその出生の時に母が日本国民であったものは、母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、施行日から三年以内に、法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。
2 前項に規定する届出は、国籍を取得しようとする者が十五歳未満であるときは、法定代理人が代わってする。
3 第一項に規定する届出をしようとする者が天災その他その責めに帰することができない事由によって同項に定める期間内に届け出ることができないときは、その届出の期間は、これをすることができるに至った時から三月とする。
4 第一項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。